「マイクロ法人」の設立に関心を持っているフリーランスの方も多いのではないでしょうか。
マイクロ法人を作れば節税効果が期待できますが、すべての人に適しているわけではありません。
この記事では、マイクロ法人の仕組みとメリット・デメリット、設立方法まで解説します。
自分にとって本当にマイクロ法人が必要なのか、判断材料にしていただければ幸いです。
目次
マイクロ法人とは

マイクロ法人とは、従業員を雇わず社長一人で運営する小規模な法人のことです。
通常の法人には複数の株主や役員がいますが、マイクロ法人では社長一人がこれらの役割を兼ねます。
つまり、個人事業主が設立できる小規模な法人というイメージです。
マイクロ法人も一般的な法人と同様に、会社法で定められた条件を満たす必要があります。
設立形態としては、株式会社または合同会社を選択するのが一般的です。
マイクロ法人設立のメリット

個人事業主がマイクロ法人を設立するとどのようなメリットがあるでしょうか。
社会保険料を抑えられる
個人事業主は、所得が増えるほど社会保険料の負担が増えます。
これは、国民健康保険が所得を基準に保険料を算定する仕組みになっているためです。
一方、マイクロ法人を設立して社会保険へ加入すると、保険料の計算基準が所得ではなく役員報酬に切り替わります。
役員報酬を適切に設計すれば、社会保険料の負担を抑えることが可能です。
経費の範囲が広がる
個人事業主よりも法人の方が経費として認められる範囲が広いです。
具体的には、以下のような項目があります。
家賃
個人事業主でも家事按分で家賃を経費にできますが、一般的には事業使用スペースに応じて20〜40%程度でしょう。
一方、法人名義で賃貸物件を契約し、社宅として役員に貸し出す形にすれば、家賃の大部分を法人の経費として計上できます。
生命保険料
個人事業主の場合、生命保険料控除は年間最大12万円です。
法人では条件を満たす保険商品であれば、より大きな金額を損金算入できる場合があります。
ただし、損金として計上できる保険は限定的です。
出張日当
個人事業主は出張費を経費計上できますが、実費精算のみで手当は支給できません。
一方、法人は出張旅費規程を整備することで、実費に加えて出張手当を支給できます。
出張手当は所得税非課税、社会保険料も不要です。
融資で有利になる
法人格を持つことで、金融機関からの信用が高まり、融資を受けやすくなる可能性があります。
事業向けの融資は法人を対象にしているものが多いため、個人事業主よりもマイクロ法人のほうが自社に合った融資を受けやすいのです。
代表者1人だけの法人であっても、登記した情報が公開されるという部分は大手企業と同様なので、個人事業主よりも信頼感を得やすくなる可能性があります。
また、会社の創業向けの融資や補助金なども活用できます。
マイクロ法人設立のデメリット

コストがかかる
マイクロ法人設立のためには、コストがかかります。
株式会社を設立する場合、定款認証と登記費用で最低でも20万円、合同会社であれば10万円程度必要です。
さらに設立時だけでなく、以下のように毎年の維持費もかかります。
- 法人住民税の均等割:赤字でも最低7万円
- 税理士への顧問料:年間10万円から20万円程度
自分で記帳や決算を行えば費用は抑えられますが、法人会計は個人事業より複雑なため、相応の知識と時間が必要です。
事務作業の負担が増える
法人を運営すると、個人事業主にはなかった事務手続きが増えます。
毎月の給与計算と源泉徴収、社会保険の加入手続きに加え、毎年の算定基礎届や賞与支払届などの定期的な届出が必要です。
さらに決算後は法人税の申告書作成や株主総会の議事録作成も行わなければなりません。
本業に集中したいフリーランスにとって、この事務負担は大きなデメリットです。
税理士に依頼すれば負担は軽減できますが、当然費用がかかります。
マイクロ法人の設立手順
ここではマイクロ法人を立ち上げるときの基本的な流れをお伝えします。
各段階で必要となる書類や、期限を把握しておくと手続きがスムーズです。
定款作成
法人設立の最初の工程が定款の作成です。
定款は会社の根本規則をまとめた書類で会社名や本店所在地、事業目的、資本金額、発起人などを記載し、設立時に必ず作成します。
定款は、公証役場の控え用、会社保管用、登記申請用に3部製本します。
左側を綴じ、それぞれの見開きページに発起人の実印で割り印を押します。
株式会社の場合は公証役場で定款の認証を受ける必要があり、認証手数料として約5万円がかかります。
定款の作成が終わったら、資本金を発起人名義の口座へ振り込みます。
資本金は1円から設定できますが、実務では10万円から100万円が採用されるケースが多いです。
登記申請
その後、法務局で登記申請を行います。
登記申請には登録免許税として、株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円が必要です。
登記が完了すれば法人として正式に成立し、登記簿謄本を取得できるようになります。
届出
登記完了後、税務署と自治体、年金事務所への届出が必要です。
税務署には法人設立届出書を提出し、青色申告の承認申請も同時に行います。
青色申告を選択すれば、欠損金の繰越控除など税制上の優遇を受けられます。
給与支払事務所の開設届出書も提出し、役員報酬を支払う準備をします。
都道府県と市区町村にも法人設立届出書を提出し、社会保険に加入する場合は、年金事務所で健康保険と厚生年金の加入手続きを行います。
マイクロ法人が向いている人
マイクロ法人を設立してメリットを最大限活かせるかどうかは、現在の収入や働き方によって異なります。
あなたが以下のような状況なら検討すべきかもしれません。
- 年間利益が一定以上あるフリーランス
- 自宅兼事務所で働くクリエイターやWeb系事業者
- 家族に給与を出したい個人事業主
- 将来の退職金を準備したい事業者
- 売上変動が大きい業種
- 取引先から法人格を求められている
これらの条件に複数当てはまる方は、マイクロ法人設立を検討する価値があります。
ただし設立・維持コストや事務負担も伴うため、まずは税理士に相談し、具体的な節税効果をシミュレーションしてから決断することをおすすめします。
まとめ
マイクロ法人は、社会保険料の負担を軽くしたいフリーランスや個人事業主にとって節税のための有効な選択肢です。
年間所得が500万円以上の場合は削減効果が大きくなり、法人経費として扱える支出の幅も広がります。
節約額が維持費を上回り、事務作業の負担を受け入れられるなら、マイクロ法人の設立を考えてもよいでしょう。