ITフリーランスとして働いていると、「ケガや病気で突然仕事ができなくなったらどうしよう」と不安を感じたことはありませんか?

フリーランスは会社員と違い、仕事が止まった瞬間に収入がなくなってしまいます。

業務中のケガや病気によるリスクに備える制度として「労災保険」があります。

従業員として雇われている人は原則として労災保険に加入していますが、フリーランスの場合はどう扱われるのでしょうか。

この記事では、ITフリーランスが労災保険に加入できるかどうかを仕組みとともに解説します。

ITフリーランスに労災保険は適用されるのか?

労災保険は本来、事業主に雇用されている「労働者」を対象とした制度です。

フリーランスのように雇用契約を結ばず、自己の裁量で仕事を請け負う働き方は「労働者」には該当しないため、これまでは労災保険の適用外とされてきました。

例外的に「特別加入制度」という仕組みもありましたが、対象となるのは建設業や運送業など一部の業種に限られており、IT分野の仕事は含まれていませんでした。

しかし、2024年11月1日(令和6年)の制度改正により、一定の条件を満たせばITフリーランスも労災保険に加入できるようになりました。

特別加入の対象となるフリーランス

厚生労働省によると特別加入の対象となるフリーランスは、以下のように定義されています。

フリーランスが企業等から受けて行う「業務委託」が対象となります。「業務委託」とは企業等がその事業のために他の事業者に、物品の製造、情報成果物の作成(プログラミング等)、役務の提供(通訳等)を委託することをいいます。つまりフリーランスが企業等から業務委託を受けて行う「事業者間の委託取引」が対象となります。さらに、企業等から業務委託を受けて事業を行うフリーランスが、当該事業と同種の事業を消費者から委託を受けて行う場合のケガ等も補償の対象となります。

このように、BtoB(企業や事業者からの業務委託)の形で働くフリーランスが対象となります。

企業や事業者から受託開発や常駐案件、Web制作などの業務を継続的に請け負っているITフリーランスは、労災保険の特別加入の対象に該当します。

一方、一般消費者(BtoC)との取引のみを行っている場合は、加入対象外とされています。

ただし、事業者との取引があり、同じ職種で一般消費者とも取引している場合はBtoCの業務中に起きた災害についても補償の対象になります。

加入時は団体を通じた手続きが必要

フリーランスが労災保険の特別加入を希望する場合は、「労働保険事務組合」や「特別加入団体」と呼ばれる、厚生労働省の認可を受けた団体を通して申し込む必要があります。

加入希望者は、各事務組合から案内された書類を提出することで手続きを進められます。

フリーランスが労災保険に特別加入するときの注意点

特別加入制度には、いくつか気をつけておきたいポイントがあります。

ここでは、特に重要となる2つの点をお伝えします。

業務内容や契約形態が変わったときは届け出る

特別加入後に請け負う業務の種類や取引先が変わった場合は、速やかに加入団体に報告し、必要な変更手続きを行う必要があります。

例えば、以下のようなケースが該当します。

  • これまでと異なる種類の業務を請け負うようになった
  • 新しい企業と契約を結んだ
  • 自身で従業員を雇うようになった

変更届が提出されていないまま事故が発生すると、変更後の業務に関連した範囲が補償の対象外となる可能性があります。

申請した内容に変更があったときは、必ず手続きを行いましょう。

補償されるのは「業務災害」と「通勤災害」に限られる

業務災害

仕事中や業務に関連する作業中に発生したケガ・病気・死亡が対象です。

例えば、委託先に常駐している最中の事故や、打ち合わせ・納品のために外出した際のトラブルなどが該当します。

通勤災害

自宅と就業場所との間を、通常の経路で移動中に発生した事故も補償対象になります。

ただし、完全に在宅で仕事をしている場合や、勤務場所が固定されていない場合には通勤災害として認められないこともあります。

労災保険の給付申請

業務災害や通勤災害が発生した場合は、労災保険の給付を受けるために申請手続きが必要です。

申請も特別加入団体を通じて行います。

ケガや病気が発生した時点で、速やかに加入団体へ連絡しましょう。

団体は、給付申請に必要な書類(給付申請書・医師の診断書・事故状況報告書など)や、手続きの流れについて案内してくれます。

必要書類を揃えて提出すると、団体が所轄の労働基準監督署に申請を取り次ぎます。

その後、監督署による審査を経て、給付の可否や支給内容が決定されます。

フリーランスのリスクヘッジ

制度改正により、フリーランスでも労災保険に特別加入できるようになったのは大きな前進です。

ただし不測の事態に備えて、労災保険の加入以外の対策もしておきたいところです。

ここでは、フリーランスがリスクに備える4つの方法を紹介します。

民間の傷害保険・任意労災保険

労災保険でカバーしきれない部分を補う手段として、民間の保険に加入するのもよいでしょう。

民間の傷害保険や任意労災保険は、フリーランスや個人事業主でも加入できる商品が多数あります。

こうした保険は、仕事中だけでなくプライベートのケガや病気も補償対象となるものもあり、補償範囲や保険金額を働き方に合わせて選べます。

フリーランス協会の所得補償保険

非営利団体としてフリーランスを支援するフリーランス協会では、会員向けに「所得補償保険」を提供しています。

所得補償保険は、フリーランスや個人事業主が病気やケガで働けなくなった場合の収入を一定期間カバーしてくれる制度です。

フリーランス協会の会員であれば、一般加入よりも割安な保険料で加入できます。

余剰資金の確保

労災保険に加入していても、給付が開始されるまでには時間がかかることがあります。

その間の生活費をまかなうためにも、あらかじめ数カ月分の生活費を確保しておくことが大切です。

目安としては、少なくとも3カ月程度の生活資金があれば落ち着いて対応できます。

作業環境を整える

そもそも労災保険に頼るような事態を避けるため、ケガや病気を未然に防ぐための環境作りも意識しておきたいところです。

長時間にわたるパソコン作業では、姿勢の悪さが体に負担をかけてしまうので自分に合った机や椅子を用意し、快適に作業できるようにしておきます。

また、座りっぱなしの状態が続くと血行が滞り、集中力の低下につながるので定期的な運動習慣も取り入れましょう。

まとめ

2024年11月(令和6年)から、ITフリーランスも労災保険の特別加入制度を利用できるようになりました。

フリーランスという自由な働き方を選んだ以上、リスクに備える責任も自分で負うことになります。

制度の内容を正しく理解し、いざというときに慌てないよう準備を進めておきたいところです。