「消費税の納税義務についてよくわかっていない」
「適格請求書発行事業者になるべきか迷っている」
そんな不安を抱えながらフリーランス活動を始めようとしている方も多いのではないでしょうか。
特に、2023年からスタートしたインボイス制度によって、これまで消費税の納税義務がなかった免税事業者にも大きな影響が及ぶようになりました。
適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)へ登録すべきか、それとも様子を見るべきか、判断に悩んでいる方も少なくないはずです。
この記事では、ITフリーランスが押さえておきたい消費税の基本知識から、インボイス制度が実務に与える影響、そして登録判断の考え方までをわかりやすく解説します。
目次
フリーランスが知っておきたい消費税の基礎知識

消費税は誰が払うもの?
消費税は、商品やサービスの価格に上乗せされる形で、最終的に消費者が負担する税金です。
ただし、実際に税務署へ納付するのは事業者側の役割となります。
販売時や請求書発行時に預かった消費税を、まとめて申告・納付する仕組みです。
フリーランスも、基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円を超えるなど、課税事業者に該当すると消費税の申告義務が発生します。
受け取った消費税は自分の利益ではなく、あくまで一時的に預かっている税金として管理する必要があります。
例えば、Web制作やシステム開発といった案件でクライアントに消費税を上乗せして請求する場合、その消費税分は収入とは見なされません。
また、請求書に消費税額を明記していない場合でも、税込金額の中に消費税が含まれているとみなされます。
いずれにしても、預かった消費税は、定められた期限までに忘れず税務署へ納めなければなりません。
課税事業者と免税事業者の違い
フリーランスがインボイス制度への対応を考える際には、まず自分が課税事業者に該当するのか、免税事業者として活動しているのかを正確に把握する必要があります。
課税事業者とは、取引先から預かった消費税を国に納める義務を負う事業者のことです。
一方、免税事業者は、一定の条件を満たすことで消費税の納税義務が免除されます。
一般的には、開業したばかりの個人事業主や、年間の課税売上高が1,000万円以下のフリーランスが免税事業者に該当します。
免税事業者は、受け取った報酬をすべて自身の収入として扱える点が特徴です。
ただし、2023年から始まったインボイス制度により免税事業者であることが取引先との契約条件や、報酬設定に影響を及ぼすケースも出てきています。
売上1,000万円が分かれ目になる?

フリーランスが課税事業者になるか、免税事業者として扱われるかを判断する際の基準の一つが「課税売上高1,000万円」というラインです。
この1,000万円を超えると、原則として課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。
基準期間
売上1,000万円という基準は、単年の売上ではなく「基準期間」の売上高をもとに判定されます。
基準期間とは、原則として2年前の1月から12月までの1年間を指します。
この基準期間において課税売上高が1,000万円を超えている場合、その2年後には課税事業者として消費税の納税義務が発生します。
例えば、2023年の課税区分を判断する場合、基準となるのは2021年の売上高です。
もし2021年に課税売上が1,000万円を超えていれば、2023年には課税事業者として扱われることになります。
反対に基準期間中の売上が1,000万円以下であれば、その年は免税事業者として引き続き活動することが可能です。
新規開業の場合の扱い
新たにフリーランスとして独立した場合、原則として開業から最初の2年間は免税事業者として取り扱われます。
この段階では基準期間がまだ存在しないため、売上の有無にかかわらず消費税の納税義務は発生しません。
例えば、2024年に開業した場合、2024年と2025年の2年間は免税事業者として活動できることになります。
ただし、ここで注意しておきたいのがインボイス制度の影響です。
インボイスを発行できない場合、取引先側が消費税分を負担する形になり、結果として取引条件が不利になるリスクもあります。
売上規模の拡大や、取引先からインボイス対応を求められた場合には、早めに課税事業者として登録を検討するのも一つの選択肢です。
原則課税と簡易課税

フリーランスが消費税について考える際には、原則課税と簡易課税の違いを理解しておくことが大切です。
原則課税と簡易課税の違い
消費税に関する申告方法には、「原則課税」と「簡易課税」の2種類があります。
まず、原則課税では、売上にかかる消費税額から実際に支払った仕入れや経費にかかる消費税額を差し引き、差額を納付します。
例えば、売上に対する消費税が100万円、経費に含まれる消費税が40万円であれば、最終的な納税額は60万円となります。
【売上にかかる消費税額 100万円】-【仕入・経費にかかる消費税額 40万円】=【納税すべき消費税額 60万円】
一方、簡易課税制度では、実際の経費額にかかわらず、売上高に一定割合(みなし仕入率)を掛けた金額を仕入れ分とみなし、消費税額を計算します。
ITフリーランスの場合、「第5種事業」と分類され、みなし仕入率は50%に設定されています。
例えば、売上にかかる消費税が100万円の場合、50万円(100万円×50%)が仕入れ分とみなされ、残りの50万円を納めることになります。
【売上にかかる消費税額 100万円】×【みなし仕入れ率 50%】= 【納税すべき消費税額 50万円】
簡易課税制度は事務負担を軽減できる反面、経費が多い場合には不利になることもあります。
なお、簡易課税制度を利用できるのは、基準期間(2年前)の課税売上高が5,000万円以下の場合に限られます。
ITフリーランスが簡易課税を選ぶメリット
ITフリーランスは、もともと仕入れや経費が少ない働き方の人が多いため、簡易課税制度が有利になるケースが少なくありません。
実際の経費が少ない場合、原則課税では仕入税額控除できる金額が小さいため、納める消費税が多くなりがちです。
しかし、簡易課税制度を利用すれば、みなし仕入率で一律に「50%」とみなされるため、納税額を抑えられる可能性が高まります。
経費率が低く、利益率が高いビジネスモデルのITフリーランスにとっては、大きなメリットになり得ます。
簡易課税を選ぶときの注意点
簡易課税制度には注意点もあります。
まず、実際にかかった経費が多い場合です。
例えば、パソコンやソフトウェアなど高額な設備投資を行った年には、原則課税で仕入れにかかった消費税を控除したほうが節税効果が大きくなる場合もあります。
また、いったん簡易課税制度を選択すると、2年間は原則課税に戻ることができないというルールがあります。
収支状況が変わったとしても途中で変更できないため、慎重な判断が必要です。
簡易課税制度を利用するためには、税務署へ「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
この届出は原則として、適用を希望する年の前年末までに済ませなければなりません。
インボイス未登録のままだとどうなる?

インボイス制度が導入されたことで免税事業者のまま活動を続ける場合、取引先との関係にさまざまな影響が生じる可能性があります。
ここでは、具体的にどのようなリスクがあるのかを整理しておきましょう。
値下げ交渉される可能性がある
インボイス未登録のままでは、取引先が消費税の仕入税額控除を受けられなくなります。
その結果、取引先にとって実質的なコスト増となり、「消費税分を値引きしてほしい」と交渉されるケースが出てきます。
例えば、これまで税込110万円で請け負っていた案件について、「インボイス未登録なら、消費税分の10万円は引いてほしい」と求められることもあり得ます。
こうなると結果的に、報酬が減少してしまうため注意が必要です。
取引を打ち切られるリスクもある
特に法人クライアントとの取引では、インボイス発行が契約の必須条件となるケースが増えています。
大企業や上場企業では、取引先管理の一環としてインボイス発行事業者とのみ取引を継続するという方針を打ち出すところも珍しくありません。
インボイス未登録だと新規案件の受注を断られたり、既存契約を更新してもらえなかったりするリスクが生じます。
法人向けビジネスをメインにしているITフリーランスにとっては、死活問題となるでしょう。
課税事業者へ登録すべきかどうかの判断ポイント

取引先の業種や規模を考慮する
インボイスの登録を判断する上で重要なのが、現在および今後の取引先がどういった事業者なのかを把握することです。
法人との取引が中心で、相手が課税事業者であれば、インボイスを求められる可能性は高くなります。
逆に、個人相手のサービスやクラウドソーシング中心の案件であれば、現時点でインボイス登録の必要性は低いかもしれません。
特に副業レベルの収入であれば、手間や納税負担を考えて見送る判断も合理的です。
自分の主なクライアントの業態や意向を確認し、将来的に継続したい関係であれば、事前にインボイス対応の意思を伝えておくのも一つの手です。
自分の売上や経費のバランスを把握する
インボイス登録を検討する際には、自分の年間売上や経費の割合を把握してみましょう。
例えば、売上が800万円であったとしても、経費が多くかかっている場合には、仕入税額控除を活用することで消費税の納付額を減らせる可能性があります。
一方、経費がほとんどかからず利益率が高い場合は、消費税を満額納める形になり実質的な手取りが大きく減ることになります。
このように、自分の収支構造によってインボイス登録が有利なのか不利なのかは違います。
まずは昨年の売上・経費を棚卸しし、簡易課税制度の適用や消費税の試算も含めて検討すると現実的な判断ができるようになります。
- 法人取引が売上の7割以上を占めている
- 年間売上が500万円以上あり、今後も増える見込みがある
- 経費が少なく、利益率が高いビジネスモデルで活動している
- 年間売上が300万円以下
- 経費率が高く利益が少ない
- 個人向け案件が中心
まとめ
ITフリーランスにとって、消費税とインボイス制度はこれからの活動に大きく関わる重要なテーマです。
特に、法人との取引が多い場合や、売上の増加を目指している場合は、課税事業者への登録やインボイス発行を前提に準備を進める必要があります。
一方、個人向けサービスを中心に活動している場合や、副業レベルの規模であれば現状の収支バランスを踏まえ、慎重に判断するのも選択肢の一つです。
必要以上に不安を抱える必要はありませんが、放置してしまうと取引機会を失ったり、将来の展開に影響を及ぼすリスクもあります。
自分のビジネスモデルや今後の方向性を見据えた上で、消費税の納税義務やインボイス対応について適切な判断を下していきましょう。